17世紀末、英国は現在の中央銀行であるイングランド銀行を設立、金銀と兌換(だかん)できない銀行券を大量発行させて軍費を調達し、フランスなどとの戦争を勝ち抜き大英帝国の基礎を築いた。
現代の覇権国米国は未曾有の金融危機を引き起こしたがドル資金を通常の2倍も創出してみせた。中国は銀行に人民元資金を前年比で3倍も融資させ、内需の拡大に成功した。
対照的に円資金の発行を増やさない生真面目な日本はデフレ悪化に苦しみ、通貨規律の順守を義務づけられる欧州のユーロ加盟国の危機は深まるばかりだ。貨幣のいたずらである。
北朝鮮は昨年11月、デノミ(通貨の呼称単位の変更)により北朝鮮ウォンの単位を100分の1にした。新札への切り替えは1世帯当たり旧札で10万ウォン(日本円換算約3千円)が上限という条件付きだ。これにより市民がヤミ市場で稼ぎ、タンスに隠していた「非合法マネー」を召し上げる。一方で銀行預金の新通貨切り替えレートを10分の1に優遇した。工場労働者は旧通貨表示と同じ額の給与をもらえる。つまり、労働者の賃金は一挙に100倍に引き上がった。
≪外貨資産は一挙に70倍≫
労働者優遇、自由市場抑圧という社会主義の「原点」に回帰する荒業なのか。そんな建前など、かの将軍様こと、金正日総書記だって信じてはいないだろう。
北朝鮮はデノミに乗じてウォンを70分の1に切り下げた。金正日総書記を頂点とする首領経済の既得権益集団は一挙に外貨資産をウォン換算で70倍にした。
北朝鮮で金やタングステン、ウランなど希少金属を含む鉱物資源が豊富なことは、戦前に朝鮮総督府による地質調査が証明している。この資源を支配してきたのが首領企業集団である。
金など鉱物価格は、金融危機のおかげで急騰している。グラフは、2008年10月の「リーマン・ショック」前後の米住宅価格(米S&P社のケース・アンド・シラー主要都市住宅価格指数)とロンドン金(きん)市場価格および米連邦準備制度理事会(FRB)のドル資金供給残高の推移を比較している。
金価格は平時でもドル不安のときに上昇するが、金融危機後はドル札が乱発、垂れ流されるに及んで急騰するようになった。金価格と石油など他の鉱物資源価格は連動する。米国は住宅価格が回復しない限り、ドル札を発行しては住宅市場を支えるしかない。景気が好転すれば実際の需要増も見込める。従って、金など国際商品市場相場は今後も上昇基調が続くはずだ。
首領企業にとって金融危機はまさに千載一遇のもうけのチャンスなのである。ところが、道路や発電所などインフラは日本による統治時代のままで、老朽化しており、自分の手では資源開発できない。
これまでは鉄鉱石や石炭の鉱山利権を中国企業に譲渡し、これら産物の対中輸出と引き換えに石油や一般商品を中国から輸入してきた。しかし、本格的に開発するためには欧米資本の導入が必要だ。そのほうが政治的に避けたい対中依存一辺倒から抜け出られる。
≪外資を誘い込む餌≫
欧米では金融危機後、北朝鮮の鉱物資源への関心は高まっている。ロンドンなどを舞台にした投資ファンドも動き出した。ただ、国連による北朝鮮制裁などに伴う投資リスクもあり、投資家の多くが二の足を踏んでいる。
ウォンの大幅切り下げはこうした外資を誘い込む餌になる。現地投資コストが縮小し、リスクを吹き飛ばすほどの投資収益が見込めるからだ。首領企業は、産物の輸出により莫大(ばくだい)な外貨収益を海外の秘密口座にため込む魂胆だろう。
歴史的にみれば、貨幣をおとしめるたくらみは賭けでもある。成否は体制の発展か崩壊かを決める。今回はどちらに転ぶか。
【経済講座】編集委員・田村秀男 党指令次第の上海市場
■世界株式の波乱要因に
上海株価がニューヨーク株式市場を先導するケースが目立ち始めた。未曾有の金融危機からようやく立ち直り始めた世界の株式市場は、共産党中央の指令下にある上海市場に振り回されるのだろうか。
≪2カ月後はNY株に重なる≫
上海株価とニューヨーク・ダウ工業平均株価を比較してみればよい。中国を除くブラジル、ロシアなど新興国の株価はニューヨークの相場に連動するのだが、上海だけは別だ。上海株価のグラフを2カ月後ろにずらすと、ニューヨーク株の動向に重なってくる。

2007年2月下旬、上海株急落がきっかけになってニューヨーク、東京をはじめ世界中の株価が急落した。上海株価は同年10月に崩落が始まり、世界がひきずられた。08年9月にはリーマン・ショックが起きたが、上海株はその直後、反転し始めた。ニューヨーク株価が底を打ったのは上海の2カ月後である。
世界の株式市場を犬の体に例えると、ニューヨークは頭であり、上海はしっぽのはずだった。しかし、いつの間にか、しっぽが頭を振り回している。
なぜそうなったのか。理由の一つは、中国へのホットマネーの流出入規模の巨大化である。中国社会科学院の試算によれば、07年末に中国に流入していた投機資金は1兆7500億ドルで、当時の外貨準備と同水準、中国GDP(国内総生産)の53%に上った。これが逃げ出して上海株急落を引き起こし、舞い戻ると相場が回復する。このホットマネーの正体はほかならない、中国の国有企業の香港やカリブ海の租税回避地(タックス・ヘイブン)の出先という説が有力だ。国有企業は、北京の株価政策や為替対策に応じて上海で売り買いする。
≪国有商銀に積極融資命令≫
より決定的な要因は、共産党指令による株価対策である。中国の株式バブル崩壊は、07年10月中旬の全国党大会終了直後から始まった。その下降スパイラルの最中の08年9月にリーマン・ショックが起きると、胡錦濤総書記・国家主席は国有商業銀行による国有企業向けを中心とした積極融資を命令した。
09年1月の国有商業銀行新規融資は8兆元(約105兆円)に上り、融資残高は1年前の2・8倍に膨れ上がった。以来、融資残高は09年を通じて前年比3倍前後で推移し、12月末は17兆3千億元(約235兆円)という大盤振る舞いである。
銀行がこぞって3倍も融資を増やすなんて、まるでむちゃである。国有商業銀行はどうやって実行したのか。
中国人民銀行統計から国有商業銀行の資金運用を調べてみると、09年12月末の融資残高のうち67%を占めるのは中長期融資で、前年比で4・6倍も増えた。国有企業はこの融資を受けて、株式や不動産投資に邁進(まいしん)できる。商業銀行は、貸し出しとは別に有価証券投資を行っている。
この残高は前年比5・3倍、増加額は7兆5千億元に達する。貸出増加額の3分の2に相当する。商業銀行は直接、株式など証券投資に出動しているわけである。
銀行総資産に占める有価証券投資残高は、前年の19%から一挙に約3割に膨らんだ。こうみると、中国の商業銀行は銀行というよりも投資ファンドに近い。あるいは投資ファンド部門を持つ総合金融機関とでも言うべきか。融資を受けた国有企業はそこで安心して株や不動産に投資し、値上がり益を得ていく。
≪人民元流し込む壮大な賭け≫
党中央は、株価テコ入れのためにかつてない規模で人民元を株式市場に流し込んだ。壮大な賭けである。株式が再び暴落するようになれば、中国の金融パワーを担う国有商業銀行の信用も、株の持ち合いをしている国有企業の資産も大きく損なわれるが、それだけでは済まない。
ニューヨークも東京もロンドンもサンパウロも、株価は上海の道連れにされる恐れが強いのだ。



米政府系の住宅金融公社などが金融機関の住宅ローン債権を買い取り、証券にしたものがMBSである。MBSの価値は住宅価格次第で決まる。住宅市況が悪化すると、MBSの利回りと住宅ローン金利が急上昇し、住宅不況が深刻化するという悪循環が生じる。そこで
公的準備とは比較にならないほど、通貨の国際的地位を大きく左右するのは民間主体の国際金融である。日銀が国際決済銀行(BIS)の統計から抽出した日本の金融機関の通貨別対外融資残高(債権)動向をみると、恐るべきことに円建て融資の比率は1990年代半ばの60%台から急落を続け、2009年9月末には24%台へと落ち込んだ。この間、大手銀行など日本の金融機関の対外融資総額そのものは急増を続け、2倍以上に達している。




by 胡素無麗
体制の発展か崩壊か、貨幣をお…