〔経済が告げる〕田村秀男 危機が試す政治の季節
産経新聞10月1日朝刊
政治というものは下手すると破局を醸成する。今回、米国の政治家は理性を失い、「市場暴落」という凶暴な世界意思のなせるままにしてしまったのだ。11月初旬の大統領選挙と議会選挙を控えた米国では、「強欲なウォール街救済なんてとんでもない」という選挙民の声を気にした下院議員が超党派トップ間で大筋合意済みの金融安定化法案を否決してしまった。自由放任こそが繁栄を生むという1980年代以来のウォール街の金融モデルは破綻(はたん)したというのに、モデルを擁護してきた共和党保守派が言葉を失い無力そのものだ。
麻生内閣が発足した日本も政治の季節。ところが超党派による危機打開の理性の芽生えもない。「金融恐慌、大不況到来」という不安が列島を覆い始めたのに、解散総選挙の思惑だけが先行する。
冷静になって考えてみよう。90年代初めバブル崩壊した日本では、金融機関が不良債権を抱え込んだために経済の血液であるカネの流れが凍りつき、株式はもとより不動産も暴落を続け不良債権は雪だるま式に増えた。不良債権は二十数兆円と見積もられたが、15年後の現在、銀行不良債権処分損累計額は100兆円を突破しそうだ。
昨年8月の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)危機勃発(ぼっぱつ)時には、サブプライム関連損失は日本円換算で二十数兆円程度と推計されたが、最近、国際通貨基金(IMF)は137兆円に膨れ上がると発表した。公的資金投入により傷んだ金融機関の帳簿をきれいにしないと刻一刻と負の連鎖が広がるという現実に過去の教訓が生かされない。米国の場合、基軸通貨ドルを駆使して世界の金融市場を支配しているだけに、まるで地殻のマグマのごとく東京、上海、ドバイ、ロンドンなどと世界各地の市場に噴出してやまない。次には米国債とドルが暴落し、米経済が機能しなくなるばかりではない。地球全体のカネの流れが止まる。
国内では「金融帝国米国の自業自得だ」とみる向きも多い。だが、ドルが暴落しても米国は日本ほど痛まないだろう。モノを輸入しては加工品をつくり、輸出してはドルというカネに替える日本などアジアのビジネスモデルはドルの金融バブルが崩壊すれば同時破綻する。日本などから余剰資金を集めて対外投資している米国の多国籍企業や年金基金など投資ファンドは莫大(ばくだい)な為替差益を得る。ドル資産で運用する日本の手元には紙切れしかなくなる。1兆ドルのドル債券を持つ中国も同じだ。
今起きているのは、「米金融危機」ではなく、「グローバル危機」なのである。運命を自分で決めなければグローバル経済は分裂し、破壊主義者が跋扈(ばっこ)し、世界で騒乱が同時多発しよう。
2度の大戦を経た欧州では、欧州連合(EU)議長のサルコジ仏大統領が危機打開に向けた主要国首脳会議の緊急開催を日本や米国に呼びかけた。ドル一極に偏重し過ぎた世界の金融システムを是正する新しいグローバルモデル構築に向け、行動する時機がきたのだ。今のところ世界最大のドル債権国である日本がこの機を見過ごすなら、「最後の貸し手」と欧州紙から評価されている中国が黙ってはいないだろう。(編集委員)


by ..... tomtom
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