日本のバブル崩壊後のデフレ不況時に、米国の著名経済学者たちは、「ヘリコプターでお札をばらまけ」と口をそろえて言った。もともとは、マネタリストの大御所、ミルトン・フリードマン教授の学説なのだが、ポール・クルーグマン教授が日本に勧告した。もっとも有名なのが現在の米連邦準備制度理事会(FRB)のベンジャミン・バーナンキ議長で、2002年11月、FRB理事時代の講演でしゃべったことから、「ヘリコプター・ベン」というあだ名を市場から頂戴した。ノーベル経済学賞学者のジョセフ・スティグリッツ教授も2003年4月に「日本は政府紙幣を発行せよ」と説いたが、ヘリコプター・マネーと発想は共通している。
金融危機が深刻化している米国では今、ヘリコプター・ベンがまさしくドル札を大量に刷り、市場にばらまいている。巨大な不良金融資産を抱えた金融機関が疑心暗鬼になった短期金融市場でドル資金を調達できないからだが、FRBのデータをみると、ドル資金追加供給量はすさまじい。10月1日時点でのFRBの融資などによる資金供給残高は1兆5331億2800万ドルで、米住宅金融の本丸である連邦住 宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)経営不安、リーマン危機の始まる前の8月28日時点の9437億2500万ドルに比べて、5894億ドル、64%増。前年同期比で5271億ドル増だから、この一ヶ月余りで一年分をはるかに上回るドル資金を刷っては市場に流したことになる。ちなみにその一年前は年間で327億ドル増やしただけである。
それでも、まだドル資金は足りない。米議会ですったもんだの揚げ句、成立した7000億ドルの不良資産救済プログラムも不良資産の買い上げ価格が不明な上に、財源手当に不安がある。米国債(財務省証券)の発行残高は年間で5000億ドル増加してきたが、財政赤字補填や借り換え債需要も加えると、2009年度(2008年10月——09年9月)は空前絶後、1兆5000億ドルの財務省証券発行規模になるとウォール街アナリストはみている。この市場消化は極めて難しい。
米国債の保有シェアの77%(08年6月末)がFRBなど米政府機関と外国が占めている。国債相場は今のところ、ドル資金供給のためのFRBの国債買い上げや安全資産へ逃避する大口投資家の購入で安定しているが、ドル安がこのまま進行すれば、資産価値の目減りを恐れた中東産油国などの政府系ファンドは敬遠しよう。FRBも自身の財務内容が悪化するので財務省証券の購入には限度がある。
こうみると、頼みは政治的意思により、米国債を買う決断ができる各国の政府機関が「最後の貸し手」になるしか、道は残されてはいない。となると、外貨準備を増やしている産油国と中国に期待が集まる。ところが産油国も中国もドル資産の目減りに苦しめられており、おいそれとは引き受けない可能性がある。
では同盟国日本はどうかと言うと、民間金融機関に余剰資金があふれているとは言え、円高の進行に伴う為替差損を被るリスクが大きい。1987年の「ブラックマンデー」後は大蔵省(現財務省)が生保と並んで郵貯を米国債購入に仕向けたが、今では郵貯も公社化され、リスク資産に突っ込むわけに行かない。
結局、政府・日銀がドル買い介入することで米国債を購入するしかない。日銀はその分資金を市場に流すわけで、それを市場オペで吸収しない限り、量的金融緩和が進む。つまり、日銀は円札を刷って、ドル国債を買う。政府・日銀は大規模なドル買い介入を通じて、米国に対する最後の貸し手の役割を果たすわけだ。
現実問題として、日本のドル買い介入は不可避である。第一に垂れ流されるドルを買い支えないと、いずれドルは暴落危機に発展しよう。ドルが暴落したときには国際金融システム全体が破綻しかねない。もうひとつは急激な円高・ドル安の進行に歯止めをかけないと、日本の景気の先行きがますます悪くなる。円高が株売りをさそう現状からみても明らかだ。
日本はこのまま無為無策を続けるわけにいかない。米金融危機はすでにグローバル化し、さらにドル暴落不安が起きかねない。ドル暴落こそは、グローバル危機の最終到達点である。日本は欧州のみならず、中国などアジアを誘い込んでドル安定のための国際協調を主導する「新プラザ合意」の準備に取り掛からなければならないだろう。


by ..... tomtom
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