【経済が告げる】編集委員・田村秀男 “サムライ札”を発行せよ 「エープリルフールだ」とか、「円」に対する信認が損なわれ、悪性インフレになる、と揶揄(やゆ)されるかもしれない。では歴史的にはどうか。 米国の場合、南北戦争(1861~65年)時にリンカーン大統領が発行した。当時の北軍地域の物価は1860年を100とすると、64年は176とインフレにはなったが、翌年には終息した。対照的に敗れた南軍地域の物価は64年に3992となり、映画「風と共に去りぬ」が描く災厄が起きた。北部は豊富な生産能力と労働力がリンカーン札によりうまく動員され、勝利した。 日本では、明治初期の太政官札がある。由利公正の発案で、「全国の田畑石高に照らして紙幣を製造し以て一時の急を救」う方策とした。明治6年を100とする物価指数によると、10年111、12年128、14年162という具合だ。インフレにはなったが悪性というほど高くはない。むしろ太政官札なしに維新は成らなかった。戊辰の役から西南戦争にいたるまで、巨額の戦費をまかなった。殖産興業の原資や、明治4年の廃藩置県に伴う藩札(各藩が乱発した紙幣)の整理にも使われた。 そもそも、おカネとは何だろうか。現代のおカネは金や銀の裏付けのない「不換紙幣」である。中央銀行はその発行量と金利を調節し、金融機関を通じておカネを供給する。つまり、通貨供給の担い手は市中銀行である。 ところが、金融の自由化が進むにつれ、銀行の役割が小さくなった。お札は信用で成り立つ。株式、社債など証券も現金や他の資産に換えられるのだから、やはり信用マネーの同類である。日銀券発行残高は2008年末、約78兆円だが、東証の時価総額は1年間で200兆円減少しても約283兆円もある。90年代のバブル崩壊不況はこの株式や不動産価格の暴落により引き起こされた。日銀が量的緩和をしても喪失金融資産の信用に比べると焼け石に水だった。 今回の米金融危機は、天文学的に膨張した信用がぱっと消えたために起きた。住宅ローンなどの債権の証券化商品をもとに創造された金融派生商品という信用マネーの額は一万円札を重ねた場合、月に到着して地球まで距離半ばまで帰還できるほどの規模である。これだけのお札を発行するために地球上の木を全部切っても原料の紙の調達需要に追いつかないが、金融規制の撤廃と技術革新により電子空間で創造できた。このマネーが源泉になっている需要が突如なくなったのだから、自動車も液晶テレビもその他も巨大な供給能力が宙に浮いている。 こうみると危機打開策は限られる。証券や金融商品ブームを復活させ信用を創造する。が、担い手の金融機関は死に体だ。中央銀行がお札を巨額の単位で刷り増して銀行に流すという従来方式も、銀行の貸し渋りで機能しきれない。 日本は10年間もデフレ経済。世界で類をみない異常ぶりだ。平熱より低いヒトの体と同じで、新陳代謝機能が衰えている。未曾有の危機への抵抗力に乏しい。元気になるためには乾坤一擲(けんこんいってき)、政府紙幣を大量発行し、適度なインフレ、つまり平熱に戻すしかない。サムライ日本の底力を注入したい。(編集委員)
原辰徳監督の「侍ジャパン」は日本力(にほんぢから)を発揮し、見事ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を連覇した。余韻がさめないうちに、政府は「侍」を銘打った紙幣、サムライ札を直接発行してはどうか。


by ..... tomtom
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